昔は残業が当たり前、「健康管理も仕事のうち」と言われていたことを思い出します。
代理店の皆さんも若気の至りで無理を重ねて仕事をし続けたという経験をお持ちではないでしょうか。
私も会社員であった時代に、疲労が蓄積して体調を崩し、会社を休み、思うようにパフォーマンスが上がらなかった経験があります。また同じ職場には、長期にわたる病院通いや休職の末、残念ながら退職した同僚もいました。私自身、独立開業後は、日々、健康維持が働くことの第一条件であることを改めて痛感する次第です。
政府による健康施策では、健康増進法が施行され、改正が重ねられており、事業者に対しては、健康保持増進対策*1や働き方改革の中で雇用対策法改正*2に明確な施策が掲げられています。
このような状況下にあり、企業は、健康診断による健康管理を進めるなど労働者の疾病予防に取り組み、傷病による休暇制度を導入することで労働者の就労支援を実施しています。
その一方で、病気を治療しながら働く労働者をサポートするために積極的な取組みを実施している企業はまだ多くはなく、このことは今後に向けた大きな課題であると言えます。
そこで今回は、病気を治療しながら働く労働者に対する企業支援の必要性について取り上げます。
- 病気による離職者の現状
医療技術の進歩が背景にあり、がん治療における入院期間が大幅に短くなる一方、外来患者数は入院患者数を上回っており、がん治療が通院治療にシフトしてきていることがわかります。
昨今、がん罹患後の生存率は高くなっており、がんは「長く付き合う病気」に変化しつつあります。
また、92.5%の方ががん罹患後も就労を継続したいと考えているものの(厚生労働省:治療と職業生活の両立等の支援対策事業アンケート調査より)、がんと診断を受けた就労者の19.8%が退職・廃業し、その56.8%が初回治療を開始するまでに退職・廃業している現実があります(厚生労働省:がん患者・経験者の治療と仕事の両立支援施策の現状について)。
- 病気の治療と仕事の両立支援の必要性
「治療と仕事の両立」とは、病気を抱えながらも働く意欲・能力のある労働者が、仕事を理由として治療機会を逃すことなく、また治療の必要性を理由として職業生活の継続を妨げられることなく、適切な治療を受けながら、生き生きと就労を続けられることです。
がんに罹患した労働者が離職する背景には、治療を続けながら仕事を継続していく見通しを立てることが困難である、職場に迷惑をかけることに抵抗感がある、周囲に理解者が少ないなどの理由が挙げられます。
これからの時代、企業は、労働者が治療と仕事を両立できる職場環境づくりに取り組む必要があります。従業員が疾病に罹患した場合にも、躊躇することなく、安心して、治療を継続しながら働くことを選択できる職場環境とするために以下のような両立支援策を検討して導入することが求められています。
・「疾病を抱えた場合にも、会社を辞めさせない方針を表明すること」
・「職場全体で従業員が疾病治療を続けながら働くことに対する理解を深めること」
・「職場全体で疾病に対する知識向上を図ること」
・「治療継続に配慮した勤務制度や休暇制度を整備すること」など
厚生労働省は、「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を作成し、治療と仕事の両立支援を行う際の留意事項や必要な書式等を公表しています。このガイドラインに則り、企業には、可能な範囲で治療と仕事の両立支援策を進めることが求められています。
日本社会は、少子高齢化が急速に進行した結果、生産年齢人口の減少が進んでおり、特に中小企業では、即戦力となる人材の確保に苦慮し、慢性的な人手不足の傾向が続いています。
また、優秀で経験のある従業員は簡単に育成できるものではないため、従業員には健康で長く働いてもらえることが重要です。企業は必要な人材が確保できなければ、事業の存続が危ぶまれる局面に至るため、経営的視点から「病気の治療と仕事の両立支援」に取組む必要があると言えます。
健康保持増進対策*1:
労働安全衛生法第69条第1項の規定に基づく事業場において事業者が講ずるよう努めるべき労働者の健康の保持増進のための措置を継続的かつ計画的に講ずるための、方針の表明から計画の策定、実施、評価等の一連の取組全体をいう。
雇用対策法の改正*2:
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(改正雇用対策法)において、働き方改革に係る基本的な考え方を明らかにし、国として改革を総合的かつ継続的に推進するための基本方針を定めるものであり、病気の治療と仕事の両立支援についても、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定と職業生活等の目的を達成するために国が総合的に講じるべき施策の一つとして、明確に位置付けられた。