会社が年に1回実施する定期健康診断。私自身、若い頃は、診断結果に「A(異状なし)」が多く、あまり健康に気遣うことはありませんでした。しかしながら、年齢を重ねるうちに「B(軽度の異常)」や「C(要経過観察)」の数が増え、診断結果に何らか所見が記載されることが増えていきました。
しかしながら、診断結果で何らか所見が記載される様になった後、すぐに医療機関を受診したかと言えば、体調不良の実感も無く、毎年同じ様な診断結果であったことから問題ないであろうと考え、仕事が忙しい等の理由で受診を後回しにしていました。いまになって考えれば、この時期は自分自身に対するリスクマネジメントができていなかったと反省しています。
その一方で、診断結果に「D2(要精密検査)」や「D1(要医療)」等の所見が記載され、直ちに医療機関を受診する必要があるにも関わらず、「医療機関を受診することで会社に病気を知られてしまうのでは?」、「病気であることを会社に知られた場合、自らの職場での処遇はどうなるのであろうか?」等の不安を感じ、医療機関の受診を控える方もいらっしゃるようです。
今号では、前号に続いて「病気の治療と仕事の両立支援」における課題とその対応策を取り上げます。
我が国の労働人口6,886万人の内、3人に1人が何らかの疾病を抱えながら働いています。「がん」、「心疾患」、「脳血管疾患」と言われる3大疾病以外にも、多くの方が「高血圧症」、「糖尿病」、「うつ病・こころの病気」といった慢性的な疾病を抱えながら働いており、治療が必要な労働者の就労継続(治療と仕事の両立)は大変重要な課題に位置付けられています(厚生労働省「令和元年 国民生活基礎調査の概況」、総務省統計局「令和元年 労働力調査年報」)。
従業員に健康で長く働き続けてもらうため、企業は病気の予防に努め、早期診断や早期治療を通じて疾病の重症化を防ぐ必要があります。企業は定期健康診断を実施し、従業員に対する受診勧奨に努めていますが、定期健康診断における有所見率(異常所見を有する労働者の割合)は56.6%(2021年度)であり、2008年度以降は50%を超えて上昇傾向にあります(厚生労働省)。
定期健康診断の結果で異常所見がある場合、労働者は医師から意見を聴く(労働安全衛生法第66条4項)ことになります。しかしながら、体調不良がない場合、定期健康診断後の医師への受診を先送りしてしまうケースが少なくないと考えられるため、企業側から従業員に対して受診勧奨を行う仕組みを導入することは従業員の健康維持に効果的な取組みになると考えます。
また、政府による健康経営への取組みでは、公的保険外の予防・健康管理サービスの活用(セルフメディケーションの推進)を通じて、生活習慣の改善や受診勧奨等を促すことにより、「①国民の健康寿命の延伸」と「②新産業の創出」を同時に達成し、「③あるべき医療費・介護費の実現」につなげることを目指しています。
「生活習慣病」の大半を個人の健康管理上の問題として捉えていることもあり、従業員本人が会社に相談できないまま生活習慣改善への取組みがなされず、「就労不能リスク」を抱えた状態であることが多いと考えられます。
とくに中小企業では、事業場内で「生活習慣病」や「健康管理」に関する相談を受け付けることが難しいケースが多く、事業場外の機関などを活用して従業員が気兼ねなく直接相談できる体制を構築することが「疾病予防や早期診断・早期治療」に向けた実効性のある健康経営施策になると言えるでしょう。