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第11回 「求められる健康経営」 ③

健康施策のポイント②


会社が年に1回実施する定期健康診断。私自身、若い頃は、診断結果に「A(異状なし)」が多く、あまり健康に気遣うことはありませんでした。しかしながら、年齢を重ねるうちに「B(軽度の異常)」や「C(要経過観察)」の数が増え、診断結果に何らか所見が記載されることが増えていきました。

しかしながら、診断結果で何らか所見が記載される様になった後、すぐに医療機関を受診したかと言えば、体調不良の実感も無く、毎年同じ様な診断結果であったことから問題ないであろうと考え、仕事が忙しい等の理由で受診を後回しにしていました。いまになって考えれば、この時期は自分自身に対するリスクマネジメントができていなかったと反省しています。

その一方で、診断結果に「D2(要精密検査)」や「D1(要医療)」等の所見が記載され、直ちに医療機関を受診する必要があるにも関わらず、「医療機関を受診することで会社に病気を知られてしまうのでは?」、「病気であることを会社に知られた場合、自らの職場での処遇はどうなるのであろうか?」等の不安を感じ、医療機関の受診を控える方もいらっしゃるようです。

今号では、前号に続いて「病気の治療と仕事の両立支援」における課題とその対応策を取り上げます。

  • 病気の治療と仕事の両立における課題と対応策

    がん患者の就労等に関する実態調査(平成26年5月東京都福祉保健局)によれば、従業員が病気の治療と仕事を両立していく上での課題には「経済的な問題」と「相談先の問題」があることが判明しています(一部抜粋)。

    「経済的な問題」
    ・ 治療費が高い、必要な治療費の見通しが立たない(34.5%)
    ・ 働き方を変えたり休職することで収入が減少する(29.7%)

    就労しているがん患者の約1/3は「経済的な問題」を抱えています。がんに罹患した場合、手術や長期に亘る放射線・抗がん剤治療を受けることなどが理由で治療費用が高額化することがあります。その後の復職時には、罹患前とは働き方を変更しなければならないケースもあり、労働者は収入減少への不安を感じる現状があります。

    また、有給休暇を超えて休業する場合には、健康保険による傷病手当金が支給されるものの、休業前よりも収入が減少し、傷病手当金の給付期間も最長1年6ヶ月と限られることから、多くの労働者が収入の先行きに不安を感じ、長期の就労不能リスクを意識することになります。残念ながら、現行の社会保険制度では、これらの収入減少をすべて補うことは不可能であるため、労働者自身が民間の保険を選択して収入減少のリスクに備えることが必要です。

    「相談先の問題」
    ・ 
    職場内に相談相手がいない(13.7%)
    ・ 治療と仕事の両立について誰(どこ)に相談すればよいか分からない(12.6%)
    ・ 病気や治療のことを職場に言いづらい雰囲気がある(11.9%)
    ・ 医師や看護師等に仕事のことについて相談しづらい雰囲気がある(4.0%)

    職場全体における「病気の治療と仕事の両立」に対する理解が十分でない場合や「相談窓口」を未設置である場合、従業員は上司や同僚に相談しづらくなり、会社に相談できないため一人で悩みを抱えることになります。

    病気や治療については医師や家族と相談することで解決する部分が多いですが、通院や治療が長期に亘る場合、従業員は就業形態の変更などについて会社に相談しなければなりません。

    企業が相談窓口を未設置である理由として「従業員からの明確な要望が無い・・・」などの回答が見受けられますが、このような状態を継続することは、従業員から「病気の治療と仕事の両立」について具体的な相談を受けた場合にも適切に対応することが難しい状態を継続していることになります。この様な状態を解決するためには、外部機関等を活用することで社内に相談窓口を設置し、従業員と会社の双方が、専門的かつ客観的なアドバイスを受けられる体制を構築することが重要です。

我が国の労働人口6,886万人の内、3人に1人が何らかの疾病を抱えながら働いています。「がん」、「心疾患」、「脳血管疾患」と言われる3大疾病以外にも、多くの方が「高血圧症」、「糖尿病」、「うつ病・こころの病気」といった慢性的な疾病を抱えながら働いており、治療が必要な労働者の就労継続(治療と仕事の両立)は大変重要な課題に位置付けられています厚生労働省「令和元年 国民生活基礎調査の概況」、総務省統計局「令和元年 労働力調査年報」)。

従業員に健康で長く働き続けてもらうため、企業は病気の予防に努め、早期診断や早期治療を通じて疾病の重症化を防ぐ必要があります。企業は定期健康診断を実施し、従業員に対する受診勧奨に努めていますが、定期健康診断における有所見率(異常所見を有する労働者の割合)は56.6%(2021年度)であり、2008年度以降は50%を超えて上昇傾向にあります(厚生労働省)。

定期健康診断の結果で異常所見がある場合、労働者は医師から意見を聴く(労働安全衛生法第66条4項)ことになります。しかしながら、体調不良がない場合、定期健康診断後の医師への受診を先送りしてしまうケースが少なくないと考えられるため、企業側から従業員に対して受診勧奨を行う仕組みを導入することは従業員の健康維持に効果的な取組みになると考えます。

また、政府による健康経営への取組みでは、公的保険外の予防・健康管理サービスの活用(セルフメディケーションの推進)を通じて、生活習慣の改善や受診勧奨等を促すことにより、「①国民の健康寿命の延伸」と「②新産業の創出」を同時に達成し、「③あるべき医療費・介護費の実現」につなげることを目指しています。

「生活習慣病」の大半を個人の健康管理上の問題として捉えていることもあり、従業員本人が会社に相談できないまま生活習慣改善への取組みがなされず、「就労不能リスク」を抱えた状態であることが多いと考えられます。

とくに中小企業では、事業場内で「生活習慣病」や「健康管理」に関する相談を受け付けることが難しいケースが多く、事業場外の機関などを活用して従業員が気兼ねなく直接相談できる体制を構築することが「疾病予防や早期診断・早期治療」に向けた実効性のある健康経営施策になると言えるでしょう。

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