「先週から、Aさんが急に会社へ来なくなりました・・・」と職場で問題が発覚。その理由を探った結果、パワハラが行われていた可能性が浮き彫りになる。問題が発覚するまで、多くの従業員が、パワハラには「気付かなかった」、「気にとめないようにしていた」という傍観者的な態度を取っていたことが不幸な結果をもたらすケースも多いようです。
パワハラは指揮命令が行われる環境下で起きますが、被害者側の受け止め方に個人差があるため、その事実認定や解決が難しい現実があります。また、被害者から会社へ「パワハラ」に関する申告がなされた後、早い段階で解決に着手できない場合には問題がますます大きくなり、当事者間の話し合いでは解決できない事態に発展する可能性があることに注意せねばなりません。
企業は、従業員を雇っている以上、法的に課せられている安全配慮義務を守らなければなりません。安全配慮義務は、労働契約法第5条*1に定められており、従業員が安全かつ健康に労働できるようにするために企業が負う義務です。
今号では、具体的な裁判例に基づき、パワハラ防止法の下において「企業(事業主)が講ずべき措置等」への取り組みである職場環境配慮義務について取りあげます。
以前に本ニュース 第13号では、改正労働施策総合推進法が施行され、「事業主の講ずべき措置等」が明記されて4つの対応*2が義務付けられたことを紹介しました。
本判例からは、たとえ会社がハラスメントに関する相談窓口や内部通報制度を整備し、被害者本人がそれを利用しなかった事実があった場合にも、被害者本人に関わる人間関係のトラブルが発生していることを会社(使用者)が認識できていた場合には、会社には職場環境の改善に関する具体的な行動が求められ、その責任を免れることにはならないとも読み取れます。
従って、形式的な対応のみでは債務不履行であるとして安全配慮義務違反を問われることが十分に想定されるため、会社には「事業主の講ずべき措置等」における4つの対応*2に対する実効性が求められることになります。
多くの中小企業では、社内部門が専門的業務としてハラスメント等の相談窓口を運営することには限界があり、相談を受ける側がその対応に苦慮し、ストレスを抱えてしまうことがあります。企業(事業主)が改正労働施策総合推進法に対応する実効性のある社内体制を構築するためには、ハラスメント等の相談窓口を運営する者についても相談やサポートを受けられる仕組みを整備することが必要となります。
労働契約法第5条*1
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする
事業主の講ずべき措置等における4つの対応*2
1. 自社方針を就業規則などに規定し、従業員へ周知、啓発を行う
2. 従業員の相談に適切に対応できる窓口と体制を構築する
3. パワーハラスメントに対して迅速かつ適切に事後の対応を行う(事実確認、被害者・行為者への適切な配慮・措置、再発防止)
4. プライバシー保護に基づき、相談者・行為者等が不利益を被らないように周知する、その他必要な措置を行う